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地形や障害物による風の影響について

 気象データを公開していて一番多いご質問は、沿岸部にある気象庁などの風速と、ここで観測している風速データの違いについてのものです。

 一般に、高原部や山間部では、沿岸部や平野部に比べて、風の通り道となる周辺に山や谷、高い樹木などの障害物が多く存在します。

 これらの障害物があると風はその影響を受けて、特に強風時には、その風速や風向が大きく変化します。

 従って、同一地域内であっても場所によっては、風速や風向に大きな差がある場合があります。

 さらに、樹木のしなりや家の軋みなどで感じる風の強さ(力)と、計測した風速の数値とは一次比例の関係ではありません。

 従って、計測した風速の数値の差は、風の力で言えばそれ以上の大きな差として感じていることになります。

 以下、これらの点について、ご参考までに解説させていただきます。

1.地形や樹木などの障害物と風速の関係

 一般に、これらの障害物による風の影響を調べる場合は、その障害物などの縮小模型を作って風洞内で実際に風を当てることにより、煙の流れ方や櫛の歯状に並べた糸の動き方などから確認できます。また、最近はコンピュータ ・シミュレーションによる解析もできるようになっています。

 あるいは、このような大掛かりな方法でなくても、簡単な方法としては、潮の流れや川の流れの中に障害物がある場合、流れがどの様に変化しているかを仔細に観察す ることにより類推することもできます。

 (1)風が比較的弱い場合

 この場合は、図.1 のように風は地形などの障害物に沿って一定方向に滑らかに流れています。

 この状態は、一般に「層流」と呼ばれ、風の抵抗の多い地上付近の風速は上空に比べて弱くなる傾向にあります。

 (2)風が比較的強い場合

 この場合は、図.2 のように風の流れは地形などの障害物によって大きく乱されます。

 この状態は、一般に「乱流」と呼ばれ、障害物との位置関係によって風速や風向は大きく変化します。

 図.2 のA地点では、風向は比較的安定していて強い風が吹きます。

 図.2 のB地点では、風は比較的弱く、上空とは逆向きの風が吹く場合があります。

 また、風の流れを水平方向で見ると、図.3 のように風は障害物を回り込むように吹き、障害物の風下ではカルマン渦列と呼ばれる交互に逆向きに回る風の渦の列ができます。

 この場合でも、図.3 のC地点では、風向は比較的安定していて強い風が吹きます。

 同様に図.3 のB地点では、風は比較的弱く、風向は風上の方向とは直角方向で交互に向きを変える様な不安定な流れとなります。

 実際の地形では、図.2 と図.3 を立体的に組合わせた状態になり、また形状そのものの違いもありますが、概念的に風の吹き方の差をご理解いただけるのではないかと思います。

2.風速と風の強さの関係

 風によって受ける力(空気抵抗力)は、流体力学的には風速の2乗に比例します。

 従って、例えば、風速 5m/秒 の風と、風速 10m/秒 の風とでは、2倍の力ではなく4倍の力を受けることになります。

 また、風速を表示する方法には平均風速と瞬間風速があります。気象庁で観測している毎正時の風速は、直前10分間の平均風速を表示しています。

 このサイトの気象データは、常時切れ目なく観測している関係から、瞬間風速('05/11/1から計測、それ以前は1分間の最大風速)と1分間の平均風速、10分間の平均風速、1日の平均風速など、グラフ毎に表示分けされています。

 一般に、強風時の風の吹き方は一定ではなく、瞬間的に強くなったり弱くなったりします。このため、通常、平均風速と瞬間風速との比は約1.5〜3倍になります。これは、人の身体や家屋などで受ける風の力の比にすれば約2〜9倍の差となります。

 このことは、風速とその影響を理解する上で重要な点になります。

3.風速の推定方法

 上記の例のA、C地点とB地点のように、周辺の地形や樹木などの障害物の影響を受けている場合は、吹いてくる風の方向によって、その影響度は大きく変化します。

 また、吹いてくる風の強さや方向自体も自然現象なので時々刻々と変化しています。従って、これらを単純に比較推定することは難しく、実際には、その場で風速計により計る以外に方法は無さそうです。

 かと言って、一々風速計で計るのは面倒だという人は、気象庁で出している周囲の樹木の揺れ方や身体で感じる風の力などから風速を推定する方法(ビューフォート風力階級表)もありますので参考にして下さい。 強風時などに、この方法で「風の力」と「風速」との関係を推察されてみるのも一興かと思います。

 

 ビューフォート風力階級表(気象庁)

4.実測値による比較

 伊豆半島周辺で比較的強い季節風が長時間吹き続けた時刻の当地の風速と、気象庁の同時刻の各地の観測結果を比較して見ました。

 この結果からも、ほぼ同じ西風が吹いていると思われる地域でも場所によって平均風速に大きな差が出ていることが分かります。

 

  伊豆半島周辺の風速測定結果の比較(風速の単位はm/秒、大室高原以外は気象庁の観測結果)

位 置

駿河湾西 伊豆西海岸 伊豆北 伊豆南端 伊豆東海岸

観測地

御前崎 松崎 三島 石廊崎 網代 稲取 大室高原

標 高

45m 4m 21m 55m 67m 130m 350m

観測時刻

平均風速 平均風速 平均風速 平均風速 平均風速 平均風速 平均風速 最大瞬間
2005/12/05 9時 WNW 9.5 W 7 WSW 6.8 W 10.1 WSW 15.9 WSW 3 WSW 4.6 WSW 10.3
2005/12/05 14時 W 12.5 W 6 SW 7.9 W 9.9 WSW 12.2 W 4 WSW 3.9 WSW 9.3
2005/12/10 24時 WNW 7.6 W 8 WSW 5.8 W 10.2 WSW 13.0 WSW 3 WSW 5.4 WSW 11.8
2005/12/11 04時 W 10.0 W 7 SW 4.2 W 9.8 WSW 12.0 WSW 3 WSW 4.0 WSW 9.8
2005/12/13 18時 WNW 6 W 9 WSW 7 W 8 WSW 11 WSW 3 WSW 4.1 WSW 8.7